真空管ラジオ修理キッシー工房

戦前の骨董ラジオ・戦後の真空管ラジオの修理、および真空管アンプの設計・製作・測定・調整。

先日、東京ビッグサイトでの骨董グランデに出店しているときに、外国人(アメリカ?)の女性が片言の日本語で「これを買ってください」と話しかけてきました。
本来は登録してある実店舗でないと購入することはまずいのですが、外国の方なのでまずは話を聞きました。真空管ラジオとトランジスタラジオを当工房に売却したいということです。
何度かお断りしたのですが、その後もメールで何枚もラジオの写真を送ってきたりと実に熱心なので、とうとう熱意に負けて会場外の道路上で受け取りました。
これはその時のトランジスタラジオです。

動作しないということです。
ZENITH社の、ポケットラジオというにはちょっと大きい単三電池4本使用の小型ラジオです。
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乾電池を受ける電極が緑青をふいています。
まずはこれが原因の一つでしょう。
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中身の部品には、かなり劣化を感じます。
トランジスタ数は7石でしょうか?
電解コンと見分けがつかないので、6石かも8石かもしれません。

ネットで見つけたこの機種の説明です。
「1950年代の素晴らしいヴィンテージAMトランジスタラジオです。ゼニス・ロイヤル500D(デラックス)で、黒と金のボディに、有名な「アウルアイ」ノブがあしらわれています。1957年製造。単3電池4本使用(付属します)。黒いキャビネットは「壊れないナイロン製」(ラジオの背面に記載)で、ハンドルやスタンドとして使えるゴールドトーンの金属製パーツが付いています。ラジオ本体のサイズは5-5/8インチ x 3-3/8インチ x 1-3/8インチです。付属品はなく、ラジオ本体のみです。全体的に良好なヴィンテージコンディションですが、キャビネット、特に背面に使用感や擦り傷が見られます。ゴールドメタルスピーカーフレームの前面に小さなへこみがあります。最後に、ラジオは電源は入りますが、音は非常に小さいです。それでも、ミッドセンチュリーの素晴らしい逸品です! 18731円。」

さらに分解します。
スピーカーは普通とは逆に、中央が凸になったコーン型になっています。
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確かにフクロウの顔ですね。
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電池金具の錆を取り、防錆剤を塗ると、それだけで受信することができました。
ただし、雑音が多い・・・
色々なところの接触を確かめていくと、低周波増幅初段のトランジスタに手で触れると、雑音が止まることがわかりました。
トランジスタの金属ケースがシールドになっていないようです。
トランジスタのケースを隣のIFTのケースに接触させてアースすればよいので、その間を金属板で接触させ、エポキシで固定しました。
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これで雑音は止まりました。
しかし音質はスピーカーのコーンが劣化して固くなっているせいか、カン高く感じます。
これはスピーカーを替えるしかありませんが、逆コーンのスピーカーなんて見たことがありません。
このままでいきます。

錆びたネジの頭は、ヤスリで錆を落として、黒く塗装しました。
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スタンドの針金と中央のゼニスのエンブレムは金色で塗装します。

これで完成しました。
とてもきれいです。
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音質は高目なのはやむをえないかな。
このオシャレな佇まいは、ちょっとした目玉商品になりそう・・・

ナショナルパナソニックの据え置き型の中型ラジオです。
仲間にはFMが入るのもありますが、これは廉価版なのでAM中波のみの受信です。
しかし受信性能が良く、電池も使え、パワーもあるので店先や屋外作業の相棒として愛されました。
今でも結構、現役で使われています。
たまたま2台手に入れましたので、修理していきます。

1台目。
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問題は少ないのですが、上部のアルミの飾りがかなりサビています。
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内部には異常を感じません。
トランジスタを7石使っています。
当時の小型6石ポケットラジオに低周波増幅段を一段増やし、出力トランジスタもパワーを上げたものを使っています。
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問題の錆びた正面上部アルミ板は、板でなく、灰色プラの上に厚めのホイルを貼っているだけでした。
腐食しているので、剥がします。
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代わりにアルミテープを貼りました。
そう、変わらない出来栄えです。
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受信すると、残念ながらボリウムがガリ・・・
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ボリウムを外します。
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分解して内部を掃除し、スライダー端子を微妙にずらします。
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これでなんとかなりました。
きれいに掃除して、OK!!!
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2台目の修理に移ります。
1台目よりかなり汚れています。
家庭というより、現場で使われていたようです。
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これも剥がして、アルミテープを貼りました。
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汚れを取ると、傷も少なくきれいです。

しかし、電源を入れてもウンともスンとも言わないので、順に調べていったらスピーカーが死んでいます。
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他のテストスピーカーにつなぐと、ちゃんと受信しています。
ボリウムもガリではありません。
おおお、スピーカー以外は生きている!!!!

手持ちに全く同じスピーカーがなかったので、似たサイズのものをつけることにします。
口径はかなり違うけど、固定穴のサイズはやや近い・・・・
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なんとかあちこち削り、収めました。
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他は問題なし。1台目より美品です。
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2台を並べました。
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音質はスピーカーの大きい2台目の方が明らかに良いです。

感度がいいので、通信型受信機に迫れるかな???  と思い、長い室内アンテナをつけたところ・・・・
実にたくさんの局が入感するではありませんか!!!!!
やった!!!!   と喜んだら・・・・ ほとんど同じ局が重なっているだけでした。
つまり・・・ゴーストでした。
HAHAHA・・・・信号の強い局から455kHz離れている位置ごとに受信していたのですね・・・
いくら感度が高くても、高周波増幅を一段つけないと分離は難しいという当たり前のことでした。

サンヨー社の真空管ラジオを修理します。
以前にサンヨー社の5球スーパーSF-37を修理したけど、それの上位バージョンです。
(23年6月23日のブログ参照)

マジックアイ付きの6球スーパーで、外観も良好なのですが、惜しいことにツマミの一つに銀の飾り部分がありません。

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これくらいきれいですと、問題は少ないでしょう。

バリコンがダイアル糸に引っ張られ曲がり、プーリーがマジックアイと干渉しています。
そのためチューニングツマミが滑らかに動きません。
電源も接触が悪いです。
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シャーシを取り出します。
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このバリコンの立てつけに調整が必要そうです。
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真空管は6本。
一般の五球スーパーと異なるのは、マジックアイに6ME10を使うので、整流管に19A3を使うところです。また、そのためランプも3V150mA用になります。
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真空管はすべて使えそうです。
回路図は裏に残っていました。
外部入力の切り替えスイッチ周りが大変そう・・・
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バリコンは下に2mmの固いゴム板を敷いて、位置を整え強めに締めました。
本当は振動を考えると柔らかいクッションゴムの方が良いのですが、この構造ではダイアル糸のテンションに負けそのうちに再び傾きそうですから・・・
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ヒューズを挟んで押さえる金属部分がバカになっていて、ヒューズがガバガバです。
これでは安定して通電するはずがありません。
針金巻きというちょっと安易な方法で修理してしまいました。
これは減点モノですね・・・
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ここで電源を入れてみます。
おお、ちゃんと受信しました。
ラッキー!!!!  回路そのものは異常はなさそうです!!!!
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各電圧はすべてOK。
ペーパーコンデンサの漏れによるグリッド電圧の異常も、電解コンデンサの劣化による強いハム雑音もありません。
しかし、音量調整用の500kΩA型ボリウムが完全に劣化しています・・・音量が絞れないのです・・・
ガリガリだけなら内部のスライダー位置の調整で直る場合もありますが、経年劣化による抵抗値の増大は交換するしかありません。
とは言え、このボリウムは、外部入力を切り替えるために、後ろのスイッチが6接点もあります。
交換したくてもこんな特注ものは手に入りません。

元のボリウムと新品のボリウムを分解して比べ、修理方法を探ります。
左が元々の6接点スイッチ付きのもの、右が新品の2接点スイッチ付きです。
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スイッチ部だけでなく、軸の長さも違うので、何とかボリウムの抵抗摺動面だけを取り換えたい・・・
・・・可能でしょうか・・・

抵抗摺動面の板だけを取り出しました。
左が新しいものです。右の元のものとは中央のブラシの形状が違います。
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新しい抵抗板に、元のブラシを移植しました。
これなら軸もケースも元のボリウムが使えそうです。
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おおお!!!!   我ながら褒められる出来具合 !!!!!
抵抗部が新品の長軸6接点ボリウムができました。
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元のように配線し直すと、まったくの問題なし!!!!
音量もゼロから微かにまで、絞れます。
これなら安心して夜間の枕元ラジオとして使えます。

これでシャーシ配線の修理は完全です。
ダイアル糸を張り直します。
これが結構メンドーでした・・・ 見てください、このややこしさ!!!!
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可動部や接点にコンタクトオイルを指して、ラジオ部はすべて終了。

次はキャビネットの修理に移ります。
まずはできるだけ分解します。
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ツマミは不揃いがあるとまず売れないので、似た形状のものと交換することにしました。
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ボディは正面部を塗装するため、養生します。
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ミルク色で塗装しました。
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透明な正面プラはよく洗い磨いて、プラ用ワックスで仕上げました。
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正面に出る7本のネジの頭と、指針、横直線のモールはツマミに合わせてゴールドで塗装しました。
キャビネットを組み立てます。
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キャビネットも修理終了です。

シャーシをキャビネットに入れます。
これで完成です。
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バーアンテナなので、アンテナ線を伸ばさずとも十分に受信できます。
マジックアイは一応見えますが、かなり劣化していて暗いです。
全体にまぁまぁの出来上がりかな・・・

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